古谷誠章の「茅野市民館」

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長野県茅野市。茅野駅を降りると、ホームの目の前に一面ガラス貼りの建物。縦に長い様々な幅のガラスがリズミカルに連続するその外観から、一目でこの建物がタダモノではないことがわかります。

設計者は古谷誠章(ふるやのぶあき)さん。

 

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茅野市民館 古谷誠章+茅野市設計協会 2005 長野県茅野市

 

古谷さんとは何度かお会いしたことがあるのですが、一目で「ああ、この方は信頼できる建築家だ」と思わせるような方でした。少し白髪交じりの短髪に、優しい目元に柔らかい曲線の黒のナイロールのメガネ、白い麻のシャツに黒のパンツと、いかにも建築家らしいモノトーンで統一されたファッション。しかもただ端正なだけでなく、白いシャツの下に透けて見えるパステルカラーのTシャツや、時折袖口から覗くおちゃめなデザインの時計から、ユーモアや遊び心も感じさせるファッションで、ぜひ、この方に建築のデザインをやお願いしたい!と思わせる空気感をお持ちでした。そしてひとたび口を開けば、やさしく包み込むような声質と語り口で論理的かつ的確な指摘をし、時折ユーモアを交えて話すその言葉に、誰もが信頼を寄せたくなる。そんなお人柄の方でした。


茅野市民館コンセプト

 

茅野市民館は、美術館や図書館、音楽ホールやレストランといった様々な機能が複合した文化施設ですが、この建物の面白さは、それらの異なる機能の配置の妙によって生み出されていると思います。

古谷さんはまず、図書館を線路のすぐ横に配置し、駅の通路に直結させました。古谷さんは最初にこの敷地に来た時、高校生たちがホームにかかる通路の上で、寒空の下風を避けながら所在無げに列車を待つ光景を見て、このアイディアを思いついたと言っています。線路のすぐ横に図書館があることによって、高校生たちも列車のつく一分前まで図書館で本を読んで過ごすことができます。

 

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この図書館はスロープ状になっていて、線路に沿って下って行くと、ホール前の広場に至ります。

 

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図書館の閲覧スペース

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図書館のスロープを下から見る

広場からは美術館や音楽ホール、インフォメーションにアクセスできます。普通ならそれぞれに別々のホワイエを設けるところですが、古谷さんはそれらをひとつにまとめ、大きな共通の広場として真ん中に配置しました。広場は駅のプラットフォームにも対面していて、時折そこに上りの特急あずさが滑り込んできます。市民の様々な活動をまるごと受け入れるその場所は、素材の使い方や細部の納まりもとてもきれいで、まるで古谷さんのお人柄をそのまま形にしたような空間だと思いました。

 

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図書館のスロープを下りきったところにある「広場」。すぐ横に駅のプラットフォームが見える。

 

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「広場」から芝生の中庭を見る。正面のガラスは引き戸になっていて全面開放が可能。

 

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メインエントランス。写真がうまくありませんが、ここも古谷さんのセンス溢れる空間。

 

見学を終え満足し、駅のホームで帰りの電車を待ちながら立って建物を眺めていると、建物のガラスから、山々が透けて見えているのに気付きました。

ホームからは周りの建物が影となって、その向こうの八ヶ岳は見えないはずです。それなのにどうして…?と思ってよくよく目を凝らして見みると、建物の背後の山が透けて見えているのではなく、ガラスに反射して背後の山々が映って見えていたのでした。

仕掛けはこうです。

駅のホームと並行して走るガラスは一直線ではなく、表側と裏側という感じで異なる種類のガラスがジグザグに貼ってあります。

 

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そして、表側に出ている方のガラスを、少し反射度の高いものにしています。反射度の高いガラスには後ろの景色が映り、引っ込んでいる側のガラスからは建物の中が透き通って見えます。その結果、建物の表面では、ふたつの景色が混じり合って見えるのです。

 

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ガラス面に周囲の山々が映る

この街に住む人たちにとって、周囲の山々は小さい頃から慣れ親しんだ大切なものだと思います。ホームで電車を待つ人は、この景色を眺めながら、何を思うのだろう。

 

ガラスに映る山々、その向こうに、市民の活動の場が透けて見える。電車がホームに来ると、図書館で本を読んでいた学生がそれを見て、ホームへと降りてくる。何十年たっても、今と同じ風景がここにありますように。

 

また来ます!

 


茅野市民館

長野県茅野市塚原1-1-1

茅野市民館