年末から年をまたいだ旅行から帰ってきて、もうすぐ新学期が始まるという頃、
友達から、僕の誕生日を祝ってやるという誘いが来た。
誕生日会を開いてもらうなど、いつぶりだろうと
嬉しさと同時に少し照れ臭い気持ちで友達のアパートメントへ向かった。
部屋に着くと、フィンランドで学生をやっている山田さんと、日本の留学生の富田さん、
台湾からきた学生のTommyが、台湾の料理を作って待っていてくれた。
テーブルにロウソクを灯し、フィンランドのビールで乾杯した。
料理は本当においしくて、自分がアジア人であることに感謝した。
山田さんが日本から持ってきてくれた和風ドレッシングをサラダにかけて食べた。
冬休みに行った旅行の話になり、
僕が一人旅好きで、よく誰にも言わずにフラリと旅行に行くものだから、
「どうしておまえはいつもSecretlyに旅行に行くんだ」とからかわれた。
「そんなつもりはなかった」と抵抗しても、ダメだった。
どうか、あだ名が”Secretly ◯◯”になりませんようにと願った。
話題はそのうち好きな音楽の話になっていた。
TommyがColdplayの新しく出した曲がいいから聴こうと言う。
「ミュージックビデオもすごくいいんだ」と、パソコンで動画を見せてくれた。
やさしいピアノの音で始まる心地よい曲だった。
曲の世界観と、年末に一人で旅行しているときの孤独で自由な感情が重なって、
ロウソクの光でゆらめく空気の中に溶けていった。
曲を聴きながら暖かい部屋の中で降り積もる雪を見ていると、
何も悪いことはしていないけど、全てが許されるような不思議な感情になった。
曲は徐々に盛り上がり、
街の夜景をバックに色とりどりの花火が打ち上がって、終わった。
僕は我に返り、「いい曲だね」とか
「花火は日本では夏のものだけど、こっちでは冬のものだと知って意外だった」とか、
つたない英語で、当たり障りのない感想を言ったんだと思う。
言葉で言えるのはそのくらいだった。
その後は、みんなでColdplayの好きな曲の話で盛り上がった。
夜も更けて、ソファーの上で毛布にくるまった富田さんは、いつのまにか寝てしまっていた。
山田さんも毛布にくるまって眠そうだ。
Tommyは半袖のTシャツを着てまだ少し元気そうだったが、
会話もポツリポツリとしか出なくなり、僕も疲れたので、
ソファーで眠っている富田さんを置いて帰ることにした。
山田さんとアパートの前で、新学期も頑張ろうと言って別れた。
ピンと張り詰めたフィンランドの夜の寒さがとても心地よかった。
部屋に帰って、すぐにiTunesで曲を探して買った。
聴きながら寝ようとしたら寝られなかったので
頭の中で無限リピートしながら眠った。