林雅子の「せせらぎのほとりの家」

 

林雅子の「せせらぎのほとりの家」

せせらぎのほとりの家 林雅子 1996 長野県

 

先日、ユニットバスのショールームを見に行く機会があったのですが…最近の浴室はすごいです。

見た目はまるでホテルのような豪華さで、浴室暖房乾燥機はあって当たり前。ジェットバス機能や、大画面のテレビが見られるモニター、音楽を流せるスピーカーまで天井に付いていたり、さながら「第二のリビング」のような場所でした。

ショールームを巡りながら、私は昔ある本で読んだ西洋と日本の浴室の違いについて書いた文章を思い出していました。それによると、西洋の風呂と、日本の風呂の最も違う点は、広さに余裕がある場合、西洋では部屋を広げてリビングに近づけようするのに対し、日本は自然を取り入れる方向に向かうことだと書いてありました。

そうであるとすれば、現代の日本の浴室は、どちらかといえば西洋的な方向に進化をしてきたと言えるでしょう。

 

それらのショールームのユニットバスの光景にオーバーラップして脳裏に浮かんできたのが、この住宅の浴室です。

この住宅は、長野県の山中にある別荘です。設計者は建築家の林雅子さん。林雅子さんは、001で紹介した「私たちの家」の設計者である林昌二さんの奥様でもあります。

私は雑誌でこの住宅の写真を見たとき、その浴室の写真にすっかり心を奪われてしまいました。

 

せせらぎのほとりの家02居間から離れを見る

この家に浴槽は二つあるのですが、そのうちの一つがなんと小川の上にかけられた橋のど真ん中に設置されているのです。完全に屋外なので、浴室というより露天風呂に近いかもしれません。

浴槽からは山々の緑やすぐ下を流れる小川の流れが見えます。ジャグジーのスイッチを入れれば、まるで小川の流れに揺られている気分になれるのでしょうか。

橋の床は、すのこ状の板で仕上げられているので足触りもよく、人のこない山の中なのでプライバシーも心配ありません。夜は星空もきれいに見えることでしょう。あぁ、なんてうらやましい…。

 

さすがにここまでは無理にしても、私たち日本人は、もう少し、浴室に自然を取り入れることにこだわってもいい気がします。

誰でも露天風呂の気持ち良さは知っているでしょう。あの気持ちよさを、旅行のときの楽しみだけにしておくなんて、もったいない!と私は思います。なんとか、普段の家の浴室にも、あの気持ち良さを取り入れられないものか。

とはいえ、大自然のなかの別荘ならともかく、都会の中の住宅が密集した場所で外の自然を取り入れるんだとなりますが、そこは設計者の腕の見せ所です。林昌二さんの「私たちの家」の浴室の作り方は、その点でもとても参考になります。

アルヴァ・アアルトの「アアルト自邸」

アルヴァアアルトの「自邸」

“Home of Alvar Aalto” Alvar Aalto 1936

 

学生のとき、建築の勉強をしにフィンランドに1年間留学していたことがあります。

その時に何度も訪れたお気に入りの住宅が、フィンランドの建築家・アアルトの自邸です。

ヘルシンキ市内の住宅街にひっそりと建っています。

 

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庭からの眺め。最初に訪れたのは10月でした。

 

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リビング

 

見所はいろいろとあるのですが、階段の木製の手すりがえらく気に入っています。

 

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この手すり、見た目の期待を裏切らず、とても滑らかなさわり心地をしています。

手すりを支える部材もとても愛らしい形。長年使い込まれた風合いを醸し出しています。

 

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白い壁にすっと伸びる佇まいもとてもきれい。

わがままを言えば、壁との間隔があと少し広ければ、より握りやすいのですが。

 

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とてもいい。

こんな手すりが家にあったら、毎日階段を上るのが楽しくなりそうです。

毎日通る階段だからこそ、上り下りするたびにうきうきする、

それが何十年と積み重なったら人生何倍も楽しくなるだろうなぁと思います。

それはさすがに言い過ぎかもしれませんが(笑)

普段手すりなんてあんまり意識しないだろうけど、

無意識のうちに心を豊かにするであろう手すり。

案外、住宅のこういう細かい部分が、

目立たないけど住むひとをしっかり幸せにしているのかなーと思っています。

 


住所:Riihitie 20, 00330 Helsinki Finland

トラムの4もしくは4Tに乗り「laajalahden aukio」駅下車、徒歩3〜4分。ヘルシンキ中心部からだと約30分くらいです。

ガイドツアーにて見学可能です。時間は火曜から日曜の13,14,15,16時の4回。その時間に玄関前に行けば、ガイドさんが出迎えてくれます。

ツアーの細かい時間は季節によって違うので、詳しくはアアルト財団のページへどうぞ。

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写真は夏のリビング。フィンランドおすすめの季節は、やはり夏です。

 

林昌二の「私たちの家」

私たちの家

私たちの家 林昌二・林雅子  Ⅰ期:1955年、Ⅱ期:1987年 東京都文京区

 

建築家・林昌二さんの自邸です。

何かひとつ好きな住宅を上げろと言われたら、これです。

 

この住宅の設計者である林昌二さんは、

ご自身の座を定めるところから、この住宅の設計を始めたといいます。

林さんにとって自分の座のために重要なことは、

少し体を動かせば家全体が見渡せ、

朝日には陽が浴びられ、

冬の夜には足元の暖炉で火が焚ける。

食事がゆっくりできて、終わったらそこでちょっと横にもなれる。

さらには、食器を片付けて本を読んだり、手紙や原稿も書けるように、

気のおけない友人はそこに来て一杯やれるように、などなど…

 

林昌二の「私たちの家」02

林さんの居場所のある台所横の空間

テーブルは一般的な椅子座に比べてやや低めの600mm。

日本人に合った、長い時間くつろぐのにちょうどよい高さだと思います。

カウチに座ってちょっと体を動かすと、一番先の玄関まで見通せ、

家が広々と感じます。来訪者が来た時なども確認できて安心。

背後の大きなガラス窓からは庭の景色。

居間とデッキを使ってパーティーなんかをやる時は、台所から様子を伺えてサービス上もとても便利な窓。

また、長居する居場所にするためには、その周りに生活に必要な細々したものを置いておく必要があります。

そのために、円形テーブルの下には脚の代わりに戸棚が作りつけてあり、収納になっています。

小腹が空いた時はここからおせんべいを出してボリボリ…なんて。

 

書き出したら切りがありません。

このほかにも、書ききれないほど魅力の詰まった、

住宅設計のお手本ともいうべき、私の大好きな住宅です。